リニア中央新幹線 ストップ・リニア!訴訟

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第4章 本件認可処分は全幹法および鉄道事業法に違反する

1 全幹法及び鉄道法での工事の安全確保
2 トンネル工事に伴う人命への安全性が確保されていない
3 過去のトンネル異常出水事故

第4 本件認可処分は工事の安全性を欠くものであり、鉄道法5条1項4号の基準を満たさず、また、全幹法9条に違反する

1 全幹法及び鉄道法での工事の安全確保

全幹法施行規則2条1項7号のタにおいて、全幹法9条の工事実施計画を国交大臣に認可申請する場合には、添付書類として「建設工事に伴う人に対する危害の防止方法」を記載することが義務づけられている。
 このことは、国交大臣の本件認可処分においては、本件工事による「建設工事に伴う人に対する危害の防止方法」が適切に行われているか否かを審査し、それが不十分な場合は認可してはいけないことになる。
 また、鉄道法5条1項4号は「その事業を適格に遂行するに足る能力を有するものであることが鉄道事業許可の要件となっている。コンメンタール逐条解説鉄道事業法によれば、この4号の趣旨は、安全に鉄道線路等を建設及び維持管理し、列車の運行を行うための技術的能力を有することが含まれている。
 したがって、「建設工事に伴う人に対する危害の防止方法」が適切でない場合には、当該鉄道事業の許可をすることはできず、本件中央新幹線の南アルプスルートでJR東海に全幹法8条の建設の指示をした国交大臣の建設指示は違法である。
 また本件認可処分においても全幹法9条の工事実施計画を国交大臣に認可申請する場合には、同法9条2項の添付書類として「建設工事に伴う人に対する危害の防止方法」を記載することが義務づけられているが、トンネル工事に伴い人命の危険性が高い工事を認可したことは違法な認可処分である。

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2 トンネル工事に伴う人命への安全性が確保されていない

 ところで、中央新幹線工事実施計画は、南アルプスを中心とする中央構造線を初めとする多くの破砕帯がある山梨県富士川町の富士川から長野県豊岡村の天竜川までの山地に約50kmの長大なトンネル工事を行う計画であり、トンネル工事に伴う人命への安全性が確保されていない。
 南アルプスは1500万年前頃大きな地殻変動を受けて現在の形が形成された。それが赤石構造線(中央構造線)の出現である。これは本州と伊豆-小笠原との衝突で赤石山地は切断され折れ曲がり、断層で切られ隆起するなど、すさまじい変動を受けて形成された山地で、現在も日本で最も隆起が進行している(年4mmと言われる)場所で、多くの断層、活断層、破砕帯が形成されている。
この破砕帯では岩石が粉々に砕け、粘土化しており、不透水層となって水をせき止めている。このような断層が多い場所にトンネルが突き当たると多量の水が噴出し、工事人の人命を失うような大事故が発生する危険性が高く難工事が予想される。
しかも赤石山脈は3000mを超える9座の独立峰を有し日本最大の山脈である。そこに中央新幹線工事計画はトンネルを掘るが、トンネルと山頂との標高差が、小河内岳直下で約1400m、悪沢岳北綾直下で約1300mの土被りになる。
1000mの土被りで1c㎡当たり300tの荷重と言われる。破砕帯や断層にトンネル工事が突き当ればこの地山の圧力を受けた強力で大量の地下水がトンネル内に噴出することが予想される。
 南アルプスだけでなく伊那山地、木曽山地、岐阜県東濃地方の丘陵地へとトンネルは続くが、そこにも阿寺断層、屏風岩断層、恵那断層など多くの断層があり難工事が予想される。また難工事だけでなく、大量の地下水がトンネル内に出水することにより地山の上部の水が涸れるなど農業用水や上水道水源枯渇、地盤の陥没等周辺環境への影響も大きい。

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3 過去のトンネル異常出水事故

 過去に断層にトンネル工事が突き当り異常出水の事故が発生した事例は多い。これらの教訓から、断層の多い場所での工事は避けるべきことが指摘されている。

(1) 丹那トンネル工事

東海道線の丹那トンネル工事は1918(大正7)年に工事着工したが工事中に断層の破砕帯から大量の地下水が異常出水し、工事が大幅に遅れ、完成まで16年かかり1934(昭和9)年にようやく完成した。またこのトンネル工事による大量の出水が原因で、地上部の丹那盆地は豊富な水に恵まれた田園やワサビ田地帯であったが地上部の水が失われた結果農家は大打撃を受け、現在は酪農地帯となっている。
また1930(昭和5)年の直下型の北伊豆地震で丹那トンネルが横断していた断層がずれて工事中のトンネルが2.7m.も左右に食い違い、トンネルの崩落などで工事人3名が死亡している。

(2) 黒部ダム

黒部ダムの破砕帯での異常出水は映画になり有名である。1956(昭和31)年10月に発電用のトンネル工事を開始したが1957(昭和32)年5月に破砕帯に突き当たり異常出水の為10日でトンネル通過の予定が7か月を要する難工事となった。

(3) 青函トンネル

青函トンネルは北海道知内町から青森県今別町まで53.85kmの海底トンネルで1964(昭和39)年に着工し24年の歳月をかけて1988(昭和63)年3月開業した。
この工事では34人が亡くなっているが、海底での難工事で出水も多く、1974(昭和49)年12月には1分間に10tという大規模な異常出水で作業坑は130m水没したという。

(4) 東海北陸自動車道の飛騨トンネル

高速道路としては日本で2 番目に長い10.7km のトンネル工事で、1998(平成10)年着工から9年半の年月をかけて2007(平成19)年1月にトンネルが貫通したが難工事と言われた。
 難工事の原因は、トンネル土被り約1000mと地山の圧力が高く、しかも崩れやすい地山が1.7kmにも及び不良地山の次は毎分70tと大量の湧水が1年間続いた。トンネル掘削に使ったトンネルボーリングマシンも破砕帯で身動きが取れなくなり、60気圧もの高圧湧水、強力な土圧でマシンが潰されるという事態を招いた。